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とにかくタクシーの中に押し込んで帰してしまうことにした。ほっそりとした腕を掴んだとき、てっきり駄々をこねられるかと思ったが、美咲はあっさりと後部座席に収まった。大輔は、適当な額を渡して運転手に彼女を送り届けるように頼むと、初老の白い頭は「どちらへ?」と尋ねた。
座席に座った美咲は、眠ったふりなどしている。
「美咲ちゃん。君はいまから帰るんだ。確か、寮だったよね。その住所を言うんだ」
けれども美咲は黙ったまま。大輔はドアに手を置いた。このままタクシーに置き去りにすれば大人しく帰るだろうと本気で思い、あと少しでそうするところだった。しかし、白髪頭の運転手は、厄介事の気配を敏感に察知して、ウィンドウ越しに大輔を見上げてくる。運転手の隠そうともしない苦々しい顔に、大輔は挫けた。
結局、大輔は美咲の隣に腰を下ろして、戻って、と言った。念のために自宅の住所を言おうとしたが、言い終えるよりも先にタクシーは滑らかに走り出した。
「入学して一週間目で無断外泊とはね。あとでどうなっても知らないよ」
なるべく低い声で非難がましく言ってはみたが、美咲は目をつむったままで微笑んだ。
「平気。だって、届け出をきちんと出してきたもの」
大輔は思わず振り向いたが、美咲は深く眠りに落ちたふりをして何も言わない。
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