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新幹線を降りて駅から出ると、そこには僕の全く知らない世界が広がっていた。
乗ってしまえば、案外あっという間のような気もしたが、朝一番で家を出たのに今はもう昼だ。ただの学生に過ぎない僕には、やはり簡単に来れるようなところじゃない。
勢いで来てしまったため、完全なノープラン。
一応、千華の住所は知っているから、突撃することはできる。
でも、確実に会うには夜に行くのがベストだろう。ここまで来たんだ。ちゃんと会って直接サヨナラを告げてやる……いや、告げてもらおう。
……頭でいくらそう考えても、少しだけ期待してしまう。もし本当に逢えたら、前と同じように二人で歩けるんじゃないかって。
見知らぬ街をぶらつきながら、そんなことを考えて時間を潰した。
そして、あたりが暗くなった。僕はポケットからスマホを取り出すと、通話アプリをタップする。これが最後だ。そう決意して、千華に電話をかけた。
数回のコールが鳴り、もう切ってしまおうかと諦めかけたその時、コール音が消えた。
「……もしもし」
か細い声が聞こえた。自分からかけておいてなんだが、予想外の出来事に思わずスマホを落としそうになる。
「も、もしもし! 千華! 俺、優太だけど……」
「…………」
返事はない。しかし、微かに物音は聞こえている。……涙を必死にこらえている気配が電波越しでもわかった。
「えっと……実は今さ」
「本当にありがとうございました」
「……え?」
どういう意味だ? お礼を言われる覚えなんてない。あ、今までありがとうとか、そういうことか? ……でも、それよりももっと大きな違和感がある。
「いつも千華のことを支えてくれてありがとう。千華はあなたのこと、いつも楽しそうに話してて……あの子が、優太君みたいな優しい人に出会えて本当に良かった」
これは千華の声じゃない。言っている意味もよくわからない。
「あの……あなたは? これ、千華の携帯ですよね?」
「……私は千華の母です。……そっか、結局あの子は最後まで…………」
途切れ途切れの言葉が、僕をますます混乱させる。
「千華のお母さん……どうして?」
「あのね優太君、信じられないかもしれないけど、千華はついこの間……亡くなったの」
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