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……え? なくなった? ナクナッタ?
「え、亡くなったって、一体?」
千華の母親は本格的に泣き出してしまって、会話がままならない。
その反応が、彼女が死んだということを物語っているようで、僕のスマホは今度こそ手から滑り落ちた。
ーー高校に入学した直後、彼女は大きな病に侵されたらしい。彼女の母親は詳しい話もしてくれていたが、完全に思考を停止していた僕の頭では何も理解できなかった。聞こえてきたことで一つ覚えていることは、彼女が入院し始めたのは、部活が忙しくなると言っていたのとちょうど同じ時期だったということ……。
「入院してから、千華はいつも優太君の話をしてたわ。看護師さんに隠れてあなたと電話して、それで怒られたりもしてた。『もう一度、ユウ君と会うために頑張る』って言って、すごくきつい治療や手術も頑張ってた……」
……連絡が減ったのは、そういうことだったのか。
それなのに、僕は千華が浮気をしてるんじゃないかとか疑って……。何が『声を聞いたら調子がわかるようになった』だ。バカじゃないのか。気づくチャンスなんて絶対あったはずだろ。それに……
「あの、千華はどうしてそのことを僕に言ってくれなかったんでしょうか?」
「あの子は、優太君に余計な心配かけたくないし、いつも通りで接してもらいたいって言ってたわ。もちろん、正直に言ったほうがいいって何度も伝えたのよ。……今更、私が何を言ったって、言い訳にしかならないわよね」
嗚咽混じりの彼女の声は、心底自分を責めているようだ。けれど、本当に責められるべきなのは……僕に決まっている。
「いえ……たぶん、僕はそれを知っても、どうすればいいかわからなかったでしょうし」
掠れた声をどうにか絞り出す。
「……とにかく、本当にありがとう。千華のことを大切に思ってくれて」
そこで電話はもう切った。もう何も喋りたくなかった。
いつの間にか頬をつたっていた涙もそのままに、僕は一人、知らない街の夜空を見上げる。
真夏の夜空では、ベテルギウスは見つけられなかった。
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