ベテルギウス

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 僕と千華が初めて出会ったのは、中学1年の春のことだった。  僕は昔から職員室というのがどうも苦手で、その日もただ入部届を出すだけだというのに、ドアの前で何度も深呼吸を繰り返していた。   「よしっ」  小さく意気込んで、やっとの思いでドアに手をかけた時、視界の隅で、僕と同じように深呼吸を繰り返している少女の姿があった。  彼女も小さくこぶしを握りしめると、二つある職員室の入口の僕とは反対側のドアに手をかける。その時、偶然にも彼女も顔を上げ、目がばっちりと合った。  まるで鏡写しのようにお互いに目をパチクリとさせる。同じように一枚の紙をくしゃくしゃになるほど握りしめている姿に思わず笑みが漏れ、一瞬、時が止まる。  緊張がどこかへ吹き飛んで、二人同時にドアを開けた。  担任に入部届を提出して職員室を出ると、また同じタイミングで彼女も外へと出てきて、目が合ってしまった。僕は気恥ずかしくて、軽く会釈だけして通り過ぎようとしたのに、彼女は僕に声をかけてくる。 「ねえ、キミも入部届を出しに来たの? 」  彼女は照れ臭そうに、はにかみながら僕に問う。可愛い部類に入る子だと思う。それだけで、僕が気後れするには十分な理由だ。 「……うん。キミも? 」  掠れて、ほとんど言葉にならなかった声は、幸いにも彼女の耳に届いたようで、彼女は大きく頷いた。 「そう。天文部」 「え。僕も天文部……」 「え! すごい偶然! これからよろしくね!」  不意にグッと詰められた距離に、鼓動が跳ね上がる。 「あ、は、はい。よろしくお願いします」 「なんで敬語だし」  彼女はケラケラと愉快そうに笑って、肩よりも少しだけ高い位置で切りそろえられた黒髪を揺らした。
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