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それからはあっという間の日々。僕の世界は彼女を中心に回り始めた。
彼女に会えるから、学校に、部活に行った。
興味を惹きたくて、星の話題を探してはできる限り頭に叩き込んだ。それらの知識は全部、祖父が天文学者である彼女にとっては当たり前のことだったようで、あまり意味をなさなかったけれど、彼女はいつも僕の話に乗ってくれた。
「ねえ、優太くん。知ってる? 今私たちが見てる星の光って、実は何百、何千、何万年も前の光だったりするんだよ」
星の話をする彼女はいつも楽しそうで、僕の口角も自然と上がってしまう。
「それぐらい、僕だって知ってるさ」
だって、いつも調べてたから。心の中でそう呟きながら、顔では当たり前な風を装う。彼女はまるで、そんな僕の心の中も見透かしたような優しい笑みを浮かべながら、また口を開く。
「じゃあ、ベテルギウスって知ってる?」
「……名前だけは」
たしか、オリオン座の右上で一際輝いている星だったはず。
話に置いていかれないように、必死に記憶を探る。
彼女は、そんな僕の気苦労には気づかない振りをして、ただ遠くの空をじっと見つめている。
「もしかしたら、もうすでに爆発しちゃってるんじゃないかって言われてる星だよ。……地球から640光年ぐらい離れてるから、それが本当かどうかが私達にわかるのも、ずっとずっと先のことなんだって」
人知れずにその存在が無くなってしまう。
それはとても悲しいことだと、なんとなくそう思った。
ずっと遠くを見続けている彼女の横顔はひどく大人びていて、目を離してしまったら、すぐに僕の手の届かない所へ飛んでいってしまいそうな、そんな予感がした。
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