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「ねえ、もし良かったら、今度二人で見ようよ。望遠鏡でさ」
……これは後でわかったことだけれど、この時彼女が頬を紅潮させて、白い息を弾ませながら僕を誘ってくれたのは、いくら待っても僕がアプローチをしてこなかったかららしい。
好意はバレバレなのに、まったく行動を起こさない僕は、さぞ滑稽だっただろう。
「なんか可愛かったからもう少し待ってようかとも思ったんけど、年が明けたら、私からアプローチしようって決めてたんだ」
楽しそうにそう言いながら、はにかむ彼女の姿は、どんな星空よりも僕を夢中にさせた。
そして約束の日、二人で一つの毛布にくるまって真冬の真夜中に言葉を重ねた。
結局、どっちから告白したのかは曖昧なままだ。
一つ確かなのは、最後まで僕は男らしくはなかったってことくらい。
そうして中学2年の冬、僕と千華は恋仲になった。
初めのころは僕も千華も、『付き合う』というのが、一体何をすればいいのかわからなかった。僕が見た映画のワンシーンや、千華が読んだ少女漫画の真似事をしてみてもどこかしっくりこないし、二人で出かけることなんてその前からあったから、デートとやらをしてみても、何が正解かわからなかった。
色々試してみても、結局最後には「今まで通りが一番だね」って二人で笑いあった。
そんな日々はささやかでも、これ以上にないくらいに幸せで……。
……だから、いくら千華が遠くへ行ってしまうからって、「別れよう」なんて言葉は聞きたくなかった。
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