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中学校の卒業式が終わった後、僕と千華は空き教室にいた。
この学校も今日で最後か、なんて僕がしみじみと言ってみても、千華はどこか上の空でただ小さく頷くだけで、僕はどうしようもなく不安に駆られる。
千華がここ最近、ずっと何か言いたそうにしていることには気づいていた。でも、それを聞いてしまうのがなぜか怖くて、いつも逃げていたのは僕の方だ。
「中学は卒業しちゃうけどさ、俺と千華はずっと一緒だよな。志望校だって一緒だし。ちょっと俺の方は受かるかが心配だけど……」
上滑りする会話が苦しくなって、僕も口を閉ざす。
「……ごめん」
千華の突然の謝罪。そんなの欲しくない。
「ずっと言えなかったんだけどさ、私、すごく遠いところに引っ越すことになったんだ。…………だから、別れ」「嫌だ!! 」
千華の言葉を最後まで聞きたくなくて、声を荒げてかき消した。
「ユウ君……」
「いくら離れたって、メールも電話もできるじゃないか! 顔が見たくなったらテレビ電話だって。別れる必要なんてない。どんなに遠くにいたって、俺は……僕はずっと千華のこと……」
自分に言い聞かせるように、僕は言葉を噛み締める。そんな僕を、彼女は聖母のような優しい笑顔で見つめる。僕を幾度となく励ましてくれた笑顔。細められた瞳には涙が滲んでいる。
「……ありがとう」
泣きだした千華をぎゅっと強く抱きしめた。どんなに遠く離れてしまっても心は離れてしまわないように強く強く。
僕の腕の中で、千華はずっと、ありがとうとごめんねを繰り返していた。
千華が僕を想ってくれている限り、絶対に別れてなんかやらない。
そんな強い意志を込めて、僕と千華は初めて唇を重ねた。
二人なら大丈夫だ。この先もずっと……。
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