11人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、千華のいない高校生活が始まった。クラスには同じ中学だった人も何人かいて、千華とのことを同情された。
でも、僕は同情される覚えなんてない。千華とは毎日連絡を取り合っているし、寂しくないと言えば嘘になるけれど、二人なら絶対に乗り越えられると信じているから。
高校にも天文部はあった。その部室の前を通り過ぎたときに、千華と見た星空が一瞬脳裏に浮かんだが、千華が隣にいない天体観測なんて意味がない。
部活には入らない。千華に会いに行くにはお金がいる。バイトをしないと。
千華は部活に入ったらしい。バスケ部のマネージャーだとか。千華は小学校でミニバスをしていたらしいし、元々バスケが好きだった。……それに関しては少しだけ不安になる。勝手なイメージでしかないが、運動部のマネージャーなんて絶対モテるじゃないか。ただでさえ、千華は贔屓目なしに容姿が整っているんだし。
千華もバイトをしろ、なんてことはさすがに思わないが、少しくらい僕の気持ちも考えてほしい。もっとも、そんな女々しいこと、千華には口が裂けても言えない。
「友達に誘われて入ってみたけど、マネージャーってのも思ったより大変だね。しかも私、想像以上に運動不足でさ、すぐに息切れしちゃうの。選手たちよりゼーゼーしちゃって、すっごく恥ずかしかった」
受話器越しの千華の声は、離れてしまう前と何も変わらず楽しそうに弾んでいて、もちろんそれは嬉しかったけれど、ほんの少しだけ胸がチクリと痛む。
「そっか。応援するけど、無理はするなよ」
「うん。……ユウ君は何の部活入った? やっぱり天文部?」
「……うん、そう。天文部。よくわかったな」
「だって、他にユウ君が入りそうなのなんてないじゃん」
なんとなく、バイトばかりするつもりだと伝えるのが嫌で嘘をついた。千華に妙な気を遣わせたくはない。こうやって楽しそうな声を聞けるように、千華には生き生きと過ごしてもらいたい。
「天文部か……。いつか、また二人で星を見ようね」
「うん」
「約束だよ」
「ああ、約束」
こうやって少しづつ約束を増やしていこう。そして、また隣に居れるようになったら全て果たすんだ。
そう思えば、いくらでも頑張れる気がした。
最初のコメントを投稿しよう!