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僕は君に恋をした。とても仲の良い君に、そして豪快に笑い、豪快にあくびをして、変なことを言い、とんでもなくくだらないギャグを言い、下ネタで腹を抱えて笑う君に。 僕はそんな君を好きになってしまった。今ではもう大好きだ。 多分これは三回目のデートであって、世間の自称色恋沙汰マスター共曰く、「三回デートは勝利確定」らしい。その高尚なマスターたちに感化され、僕は鼻高々で池袋の街を君と歩いた。おいしいものを食べ、自由奔放に街を歩く君にきっと僕は見とれていた。 本来の名目であったアイドルが主演の映画を見終わり、外に出た時、好きなアイドルがキスしたことのショックや、熱血漢であろう俳優さんの素晴らしい演技への感嘆も秋の風が一瞬でどこかへ運んで行った。理由はきっと明白で、君が帰りたがったからだ。 そんなの聞いていない、君と今晩は一緒に晩飯を食うと約束したではないか。晩飯を食ってタイミングを見て告白する予定だったのに。 よく自己顕示欲の高そうな女子学生やらサラリーマンがスカした態度で居座るカフェでお茶をすることを了承させ、何とか考える時間を捻出し、戸惑いながらも帰り道につくことを選んだ。その時に告白しよう。 腹を括って電車を降り、君に待ってもらいトイレに行き、覚悟を決めた。今日伝えるんだ。そうして君の待つ場所に戻り、たぶん他の人からしても男らしい顔つきだった。 そんな覚悟も見事に折られた。君が自転車で帰るからと僕に手を振った。刀を抜いた侍状態だった僕は退けず、とりあえず君が自転車を取るのに付き合った。これで自転車を押した君を家まで送ればその最中に告白できると踏んだ僕は、次の瞬間にヘビー級のパンチをもらうことになる。 家まで送るとかいらないから帰ってくれ。 先ほど決めた覚悟は半壊状態、それでも退けない僕は送らせてくれと頼んだ。 おしっこしたいから早く帰りたいの。 それならそこのコンビニにトイレを借りればいいじゃないか。 嫌だ。本当に送るとかいいから帰って。 決めた覚悟は全壊状態。戦闘不能。 これ以上君の機嫌を損ねるわけにはいかないから告白せず帰る。 帰り道に一五年来の親友たちを呼び出し、彼らと買った肉まん二つをやさぐれながら食う。親友たちに慰められながら、ともだちはいいもんだなと思いながら煙草に火をつける。僕の想いも紫煙に包まれ闇夜に舞い上がり消えていった。 なんてことはない。
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