囚われの魔女と聖職者

12/12
前へ
/15ページ
次へ
「貴方は逃げられたのに、私を殺すためだけに戻ってきてくれたのね」  ひゅっと息を飲む音が熱した空気に消える。  ミラを死なせたいなら放置すればよかったのだ。鎖で繋がれたミラはどこにも行けない。もしこの枷が外れ、炎から逃れられたとしても、魔女とされたミラには帰る場所などない。  けれど、シェスは戻ってきた。ミラを殺すためだけに。 (私を、火に焼かせないために)  心の大部分が欠け落ちたミラでも、それくらいはわかる。  青ざめたシェスの頬に手を添えて、囁く。 「ありがとう、神官長。ずっと死にたかったけれど、貴方の気持ちは嬉しかった。……最期まで笑ってあげられなくて、ごめんなさい」  シェスが口を開いて、喘ぐように息を吸った。震える唇を歪めて、笑い声を上げる。ナイフを高々と振り上げた。 「バッカじゃないの?危うく笑い死ぬところだったよ!ありがとうだのごめんなさいだの、虫唾が走る!僕は君を、踏み躙って嘲って玩具にして、殺すだけ。僕は聖職者で、君は魔女だから。……君のことが嫌いだから」  翡翠の目から溢れた雫が、蒼白の頬を滑って、ミラの手に滴り落ちた。  誰からも見捨てられた魔女を拾って、わざわざ鎖に繋いで、世界と隔絶した場所に閉じ込めていた神官長。彼だけが、ミラを想ってくれていた。どのような形だとしても。 「私は、たぶん、貴方のことが好きになったわ」  ナイフが振り下ろされた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加