とある嘘つきのひとりごと

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「あーあ……死ぬなぁ、僕」  燃え盛る炎の中、横たわるミラの顔を見つめながら、シェスは溜息混じりに呟く。咳き込むと、唇から血がボタボタと溢れた。  笑ってはいないが、安らかな顔だった。まるで眠っているよう。まだ生きているシェスの方が、よほど酷い有様だった。  本当は抱きしめたかったが、右腕は切り落とされてしまった。仕方がないので、左手をミラの金髪に絡めておく。撫でる力すら残っていない。  ミラの言った通り、彼女を捨てて逃げることはできた。そうしなかったのは、人間ごときにミラを燃やされるのが許せなかったから。  ミラの全てがシェスのものだ。だから、ミラを殺すのも自分。 「結局、最期まで笑ってくれなかったし。呼び方も神官長のままだし。役職であって名前じゃないっての……」  紫色の唇で文句を言う。そろそろ足くらいは炎に飲まれていそうだが、もう感覚もない。視界もぼやけて、ミラがよく見えない。  だが、ここにいる。  シェスが壊して、生かして、殺した少女は、もう本当に、どこにも行けないのだ。 「まあ、いっか。疲れたし、ちょっと眠ろうかな……」  ……次に目覚めた時には、いくらか本当のことを話してあげよう。口づけと、愚かにも好きだと言ってくれたことへのお礼に。  本当は一度も魔女だと思っていなかったこと。世話をするのがそれなりに楽しかったこと。  それから。 「笑わない君も……嫌いじゃないよ」  笑わないミラだけが、シェスのものだったから。  荒れ狂う炎に飲みこまれてゆく。  一度だけ溜息をこぼして、小さく微笑む。あの時のミラのように。  そして、静かに目を閉じた。
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