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ジャラ……と、金属の触れ合う冷たい音を聞いた。
夢とうつつの狭間で、ミラはぼんやりと思う。これは夢かしら。
(それとも……死んだ、あと?)
木の棒で殴られ、石をぶつけられ、濁った悪意に晒されて。そして、火に焼かれた。
悪夢のような記憶がわっと蘇り、ミラは目を開け飛び起きた。
汗だくで、ドクドクと心臓が脈打つ。手を胸に押し当て息を吐いた。
(生き、てる?)
全身が軋むように痛み、あちこちに包帯が巻かれている。夢にしては感覚が生々しいが、死後の世界とも思えない。
信じられない思いで辺りをぐるりと見渡す。
薄暗いが、広々とした部屋だった。モスリンのカーテン、毛足の長い絨毯、高価な調度品の数々。見覚えのない品々に囲まれ、豪奢な天蓋付きベッドで眠っていたようだ。服も、肌触りのいい寝間着に変わっている。
ミラは軽くまばたきをし、困惑した。何がどうなっているのか。
ひとまず立ち上がった時、ジャラリと音が鳴った。
見れば、右足首に鉄の枷が嵌り、そこから長い鎖が伸びてベッドに繋がっている。
「おはよう、可愛い魔女さん。気分はどう?」
一人きりだったはずの部屋に、歌うような声が落ちた。ハッと顔を上げると、青年が忽然と立っていた。
ミラの顔が引きつり、青ざめる。
「貴方は……」
「そんなに怯えた顔をされると傷つくなぁ」
燃えるような赤髪を三つ編みにして、纏うのは純白の神官服と、品のいい古風な香。翡翠の瞳が悪辣にきらめく。
ズキンとこめかみが痛み、ミラの脳裏に思い出したくない光景が蘇る。
形だけの法廷。侮蔑と嘲笑と恐怖が埋め尽くす場で、ただ一人楽しげで、同じくらい退屈そうにしていた青年。
「……シェス・ウィルケイド神官長。私をここにつれてきたのは貴方ですか」
「おや、僕の名前を覚えていたんだ?」
「どうして生かしておくの。よりにもよって貴方が……」
「理由?そんなの、どうでもいいと思うけどなぁ」
シェスはケラケラ笑って、押し黙ったミラの顎を掬い、囁いた。
「君を飼うことにしたんだよ。罪深き魔女さん」
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