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(そのはずなのに)
ミラの髪を上機嫌で弄る赤髪の神官長。彼は王都から派遣された、魔女裁判の構成員だった。
ミラの判決は全員一致で魔女。シェス・ウィルケイドも当然賛同していた。
にもかかわらず、何故ミラを助けたのか。そもそもどうやって?
混乱と恐怖に顔が強張ってゆく。すると、シェスはミラの手首を玩具のようにつかみ、冷笑した。
「ずいぶん表情が固いね。聖職者に飼われるのは魔女として屈辱?」
「……私は魔女じゃありません」
「いいや、魔女だよ。我らが神の御心に背いた罪人だ。だって、僕がそう決めたんだから」
傲慢な宣告に、ミラはきゅっと唇を噛んだ。まるで、自分こそが神だとでも言うようだ。
「私が魔女なら、貴方の行いはおかしい。魔女の火刑を邪魔した人間は同罪。まして、神官長の貴方がやったことならたたで済むはずがないわ」
「そうだね」
「それがいきなり、飼うだなんて。意味がわからない」
「だろうね。でも、意味なんてなくていいじゃないか」
軽やかな笑い声が鼓膜を揺らす。シェスの翡翠の瞳が昏く光った。
「僕が気まぐれで助けたから、君は今も生きていられる。しかも、今までよりずっと上質な暮らしが約束されているんだよ?衣食住が保障されて、働く必要もない。まあ、僕が飽きるまで、だけど」
怒りが弾け、カッと頬に血が上る。手を強く振り払うと、鎖が悲鳴を上げた。
「助けてくれてありがとう、でも私は貴方の玩具じゃない。今すぐこの枷を外して。そうしたら、神官長が魔女を助けたという事実も忘れてあげる」
「僕を脅してるの?」
「そうよ。立場が危ういのは貴方。一度死にかけた身だもの、死んでも帰るわ」
「ふぅん。どこに?」
ジャラリ。
掠れた吐息が、鎖の音に紛れて消える。
死んでも帰るわ。ーーどこに?
(わすれて、た)
ミラには、帰る場所も、行くあても、何一つない。
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