怪我人たちの静かならざる日常

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「こういうの、なんて言うんだっけ。まんしんそーしょー?」 「満身創痍(まんしんそうい)です」  クールな回答、ありがとう、桐生さん。  私は笑いながら、桐生さんの痛めていない方の肩を叩いた。  相談室での一件があってから、最初の月曜日。  私たちは院内のカフェでパスタをつついている。実に平和だ。  本来であれば、月曜は一週間のうちで最も患者の数が多く、忙しい。  だが、怪我人の私たちは上司命令で午後からの勤務となったため、優雅に早めのランチタイムを過ごしていた。  11時。カフェはまだ空いている。 「友利さんは食堂のカツ丼などの方が良かったのではありませんか? パスタでは失われた血液分の栄養にはならないかと」 「大丈夫だって。ほら、今日はアボガドドックつけてるから。それよりさ、アボガドソースが写真より多い気がしねえ? やっぱ、バリスタのお姉さん、俺に気があるな」 「勘違いです」 「いやいや、この前のチーズも多かったし?」 「彼女は友利さんより10歳以上年上の既婚者で、先月は夫婦で海外旅行にも行かれた程の円満家庭ですから勘違いです」 「夫婦仲良くて何よりだけど、年齢は待て! 嘘だろ。せいぜい、俺のちょっと上くらいなんじゃねえの?」 「正確な数字は個人情報のため、許可された情報のみお伝えしています」 「マジかぁ……こえぇ……魔女すぎんだろ」
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