怪我人たちの静かならざる日常

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 桐生さんが振り返った。 「友利さんっ、そっち……お願いしますっ!」  そっちって、どっちのことだ?  混乱する私をよそに、桐生さんはツツジを囲っているブロックに飛び乗り、そのままツツジを飛び越えた。その向こう側は歩道だ。  なるほど、私の位置からは見えないが、桐生さんは男の子を追い越していたらしい。  挟み撃ちというわけだ。  だが待ってくれ。  ブロックの高さは80センチくらいある。  これに、桐生さんのように華麗に飛び乗れと?  無理で無茶で無謀すぎないか? 「ばかやろうっ! できねえじゃねえっ!」  出来ると思って言ってきた桐生さんの信頼に応えてやろうじゃないか。    というか、できないなんて思ってないだろう?  止まってしまったら勢いも止まる。  全力で走るこのスピードを、そのまま跳躍に乗せる。  無理だど思ったが飛び乗れた。 「すげえ、やればできんじゃん!」  自分を褒めてツツジを飛び越える。  というかアスファルト!  飛び越えた後の高さを考えていなかった。  バンッと恥ずかしいくらい大きな音を立てて、思いっきり両足の裏全体で着地した。  ビリビリ衝撃が伝わってくる。 「いっってえええええ!」  もう、涙目になりそうな痛さだ。  この前の杖で打たれた時の比ではない。  膝と腰!  私のライフはもうゼロよーなどと、ガキの頃に流行ったセリフを心の中で言いながら、見ると、桐生さんを見てビビったのか、男の子がこっちに向かって走ってくる。  うん、まあ……今度はあれだな。  桐生さんの顔が怖いってより、目の前にいきなり飛び出てきたにいちゃんにびっくりしたっててところだろうなあ。  本人、たいして悪いことしたつもりないだろうし。  素知らぬ顔で男の子に道を譲るふりをして、油断を誘って手を伸ばす。
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