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「そっかー。ゆーと君って言うのか。お母さんと一緒に病院に来たんだね。それで、お母さんが診察を受けてる間、こっそり抜け出してきたと」
男の子が言っていたことはおおよそ分かった。確認のためにまとめると、男の子――ゆーと君はコクンとうなずく。
表情が硬いのは、緊張しているせいだろう。
悪い人じゃなさそうだと分かってくれたようだが、怒られると思っているのかもしれない――と、思いたい。
少なくとも、私の背後にある強烈に真剣すぎる視線に怯えている訳ではないと信じたいのだが、ゆーと君は先程からチラチラと私の背後をみてはビクッとなる。
場所は院内のカフェ、中庭に面したカウンター席だ。
クロネコは堂々とカウンターに座っている。 せめてこのクロネコが子供にも見えたら和むのだろうが、どうやら見えないらしい。
カウンター席に私を挟んで3人、横並びに座っている。左側にゆーと君、右側に桐生さんだ。つまり、ゆーと君の方を向いていると桐生さんの視線が私の背中に刺さることになる。
あー、ゆーと君の態度で、桐生さんが今、どう言う顔をしているのか分かるぞ。
こわくないからな?
桐生さん、いい人だからそんなに怖がらないでやってくれよ。
最初にそう言ったのだが、あまり効果はなかった。
危うく通報されそうなところを、首から下げた職員証を見せて救ってくれた桐生さんだったが、いきなり目の前に飛び降りてきたインパクトがデカすぎたのかもしれない。
うーん。
いくらなんでも、傷つくんじゃないか、桐生さん。この前も子供に泣かれたし。
ちらりと桐生さんを見ると、睨みつけるような顔でこちらをみている。真剣になればなるほど、顔が怖くなってしまうのは分かるが、もう少し、緩めておこうぜ。
笑顔が大事だ、笑顔が。
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