救急外来の日常

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「ぶつかったってよりは、フツーに老朽化だろうなぁ……30年だし」  ふと、当院の歴史……というか事実上、結城事務局長の伝記を思い出した。病院の歴史はこの建物の歴史でもある。 「色々と検討したいところではありますが、これはわたしたちの管轄ではありませんね」 「お。珍しい」 「何がでしょうか」 「施設管理課に言うだけで構わないなんて、珍しいなって」 「当たり前のことではないでしょうか」 「桐生さん、自分の担当じゃないからって関心を持たないの嫌いじゃん。医事課の係長とバトルったくらいだし」  怪訝そうに眉を寄せる。これは本当に心当たりがなさそうだ。 「だからさ。医事課の係長が赴任した直後。あのヒト、私用の外線依頼まで電話交換に依頼したり、クレーム対応も押し付けたりしてただろ」 「そう言えばそうでしたね」 「それで桐生さん、すげえ怒って医事課に文句付けにいったじゃん」  殆どの大病院の代表電話は、電話交換手を介して担当部署に回される。たとえば、重篤患者からの電話などはプッシュ選択式では対応しきれないためだ。  電話の総合受付である電話交換は搬送さんと同じく委託業者に任せているのだが、時々、相手の立場が弱いことにつけ込む職員がいる。  委託業者の担当は桐生さんだ。  そもそも不正行為は絶対に許せない性格だから対応は早かった。 「わたしは当たり前のことを当たり前にしているだけです。弱い立場の人に無理を強いることは絶対にしてはなりません。そもそも、わたし達はそう言う立場の人のためにあるのですから」 「福祉って意味じゃ、そうだよな」  それでも、金と権力に人は弱い。  面倒を嫌って、正しいと思っても口に出せないことが殆どだ。
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