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私も自然と声がひくくなる。
急いでトアを締めて階段を駆け上がる。
北階段は普段誰も通らない静かな階段だ。
だが今は、ざわついていた。
1階と2階の間の踊り場まで来ると状況が明確になる。
見上げた3階のドアが開いており、50代くらいの女性を中心に10名ほど扉の内側に向かって立っていた。
立入禁止区域に入り込んだと言うより、3階に入りきらなくて溢れ出たと言った方が正しいかもしれない。
扉の向こう側からは、誰かが何かを言っているのが聞こえる。
しかし階段側にいる人々の話し声で遮られ聞き取れなかった。
「何かあったみたいだな」
ヒソヒソと桐生さんに耳打ちする。
「3階は重症患者の病棟です」
桐生さんの返事も静かだ。
「患者の数が多く、その家族が溢れてると考えられます」
「だろうな。患者には見えねぇよ」
「急ぎましょう」
「聞きに行く?」
「いえ、急ぐのは庶務課に、です。何かわかるかもしれません」
「何かって……俺らは医師でも看護師でもないんだぞ」
あれだけの数の家族らしき人々が集まっているのだ。何か大きな事故があったと考えるのが自然だ。
高速道路で玉突き事故があった時も酷かった。負傷者が30名以上に登り、近隣の医療機関に振り分けられた。
当院の受け入れは八名で、救命センターだけでは対応しきれず、3階でも受け入れていたからこうして階段まで、その家族であふれた。
扉を開けだ向こう側はナースセンター前でスペースが広く開いているのだが、そこに入りきれない家族は階段まで出てきてしまうのだ。
こう言う時は、通常の説明室の使用や入退院センターでの事務手続きは行えない。予約が入っていた患者の対応が一切できなくなるから、各部署から手伝いに行く。
「つまり……事務手続きの手伝いってこと? 俺らだと普段やってないから保険証の手続きとか電子カルテの操作とかわかんないよ」
「わかっています」
上を見上げる桐生さんの目に、不安の色があるように見えた。
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