救急外来の日常

14/14
425人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
 救命センターは私が思っていた以上の混乱ぶりだ。  そりゃそうだ。  20名は無理がある。  そう思っていると、あわただしく動いている看護師の中に、見慣れた顔を見つけた。 「師長」  いつもは優しそうな笑顔の看護師長も、今日ばかりは表情が硬い。 「友利くん。手伝いにきてくれたの」 「俺、なにしたらいいですか」 「いま、看護部長から連絡が来たところ。大講堂で説明会するから患者の家族をそっちに誘導して。移動中に色々聞かれるかもしれないけど、講堂で話すからなにも言わないどいて」  なにも言わないでもなにも、私は全く知らないんですが。  いや、むしろ、情報をなにも持たない方がいいのかもしれない。  何か聞かれても答えられないんだからな。 「わかりました」  私は頷くとすぐに救命センターを出た。  ここにはいい思い出がない。  ふと、犬飼さんのことを思い出した。  ICUではなく、家で死にたいと言った犬飼さんの気持ち……分かる気がした。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!