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救命センターは私が思っていた以上の混乱ぶりだ。
そりゃそうだ。
20名は無理がある。
そう思っていると、あわただしく動いている看護師の中に、見慣れた顔を見つけた。
「師長」
いつもは優しそうな笑顔の看護師長も、今日ばかりは表情が硬い。
「友利くん。手伝いにきてくれたの」
「俺、なにしたらいいですか」
「いま、看護部長から連絡が来たところ。大講堂で説明会するから患者の家族をそっちに誘導して。移動中に色々聞かれるかもしれないけど、講堂で話すからなにも言わないどいて」
なにも言わないでもなにも、私は全く知らないんですが。
いや、むしろ、情報をなにも持たない方がいいのかもしれない。
何か聞かれても答えられないんだからな。
「わかりました」
私は頷くとすぐに救命センターを出た。
ここにはいい思い出がない。
ふと、犬飼さんのことを思い出した。
ICUではなく、家で死にたいと言った犬飼さんの気持ち……分かる気がした。
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