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事故関連の患者の検査の後にCTとMRI検査をしてもらった私は、診察を受けることになった。脳神経外科も整形外科も、目が回るような忙しさだと言うのに、仕事を増やしてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。非常につらい。
こうして、診察室の椅子に座っている間も、針のむしろに座っているような心地だ。
いや、別に怒られたわけはない。
何が辛いって、優しくされることが辛い。
あの時は体が動いてしまっていたが、医療行為を行う側からすると私は、せっかく手間暇かけて治療してやったのにわざわざ悪化させて帰ってきた迷惑な患者だ。怪我人はおとなしく治療に専念するべきとお怒りになっても当然ではないだろうか。
そもそも、診察に入る前から非常に居心地が悪かった。
待合室で問診と一緒に血圧を測ってくれたベテランの看護師から「こんなに血がにじんでるのに痛いと思わなかったの? ――あらやだ、血圧一八二じゃない。精神的なテンションはあげてもいいけど、血圧的なテンションはあげないでよ」と、医療ギャグを言われた。
元気な時なら、こういうギャグも楽しく笑えるのだが、今の状況では全く笑えない。
検査の結果、症状が悪化したとは言えないものの、傷口が開き、包帯まで血がにじんでいたのだから、医療行為をした方としては、怒り心頭なのではなかろうか。
「あのう……」
「友利君ねえ……相談員さん守って怪我したと思ったら、今度は院外に脱走した子供を追いかけたんだって?」
一通り大切なことを話し終えた絹井先生はにこやかにそういった。
「体を張って頑張るのもいいけど、こっちがやれることにも限界があるから、程々にしてもらわないと」
あなたもそう思わない? と絹井先生が話を振ったのは、先生の奥側に座って電子カルテの入力をしていたシュライバーの看護師だ。
ちなみに、うちの病院ではカルテを代理入力するシュライバーという事務スタッフが各診察室に一人ずついるのだが、救命センターに限っては、その役割は看護師が担う。
「絹井先生のおっしゃる通りですね。友利さんは本当に運が良かったですよ。今、病棟満室だから、ここの職員なのに、危うく市外の病院に入院するところでした」
「あら、ほんと? 良かったわねえ、友利君。入院しないですんだわよ」
「……そ、そうですね」
私はいたたまれなさに、無理やり話題を変えることにした。
「そうだ。あの! さっき、問診と一緒に血圧はかってもらったんですけど、一八二は高すぎないかと思いまして。ほら、健診で一四〇以上になると、再検診のお便りが入るじゃないですか。明らかに、オーバーした数字ですよね」
しかし、私のあがきは無駄に終わった。
「ああ、それね。心配しなくていいから。初診時は一一二だったし、問題ないわ。強いて言うなら今回のは職業病みたいなものよ。人の命を預かる仕事だからね。どのポジションにいても精神的な負担は大きくなるの。二〇〇くらいまではよく見かけるわね」
「それ、大丈夫なんですか?」
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