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「リラックスしてる時に低ければ大丈夫よ。心配だったら、一日の中で何度もはかってみてね。それでも高いままだったら内科を受診して」
こええよ、医療従事者の常識。
「先生もやっぱりそうなんですか?」
「そうね。だけど私は一時的な高血圧よりも慣れによって緊張感を失う方が怖いわ」
「慣れて雑な対応をしてはいけない、と言うことですか?」
「私たちにとってはたくさんの患者の中の一人であっても、その患者さんにとって、自分は世界にたった一つしかない唯一の存在でしょ?」
ああそうか。
だから絹井先生は、こんな時間になっても、疲れていても、平気な顔でいるのか。
時刻は二〇時半を回っている。
絹井先生も他のスタッフも、みんな朝から働き通しだ。それなのに、全く疲れを見せずに優しく対応してくれているのは、彼らにとって私は同僚である前に患者だからだ。
「プロフェッショナルですね。かっこいいなあ」
思ったことがそのまま口から出てしまっていた。
絹井先生は目を丸くすると、ころころと笑う。
「まさか、友利君に言われるとは思わなかったわ」
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