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つい真剣に考え込みそうになり、慌てて首を振った。
私が考えたところでどうにかなる問題ではない。
それに、深く考えるまでもなく、即座に私にかかわる問題があることに気づいた。
「あのさ。桐生さんがこれを調べてたのって、この会社が医療費を負担する可能性があるから、とか?」
患者の数が多い分、行っている検査も多い。
特にCTやMRIは高額だ。
だが、勤務医にそれは関係ない。
必要だと考えればどんどん検査を受けさせるだろう。
まして、怪我をしているのが子供となれば、なおさらだ。
するかしないか迷ったら『念のため調べておきましょう』と言うに決まってる。
で、誰がこの高額な医療費を支払うんだ?
これを調べて請求するのは全て、事務方の仕事だ。
「通常、学校の管理下で負った怪我は学校保険で賄われます。ですが今回は……」
「学校保険だって折上化学の責任を肩代わりするほどお人好しじゃねえよな」
「事故前に折上化学は該当の建材に問題があることを認め、記者会見を開いています。ですが……」
「んじゃあ、折上化学に払ってもらえばいいんじゃね?」
「ところが、そうとも言い切れません。行政側の責任が問われる可能性もあるからです」
「なんでだよ。行政は悪くねえだろ。どっちかってーと、被害者側だ。学校の体育館だぞ。安全なもんを作ってもらわねえと困るじゃねえか」
「いいえ。十分な検討がなされていなかったと考えられます」
「いやいや、この場合、行政は客だぞ。さっきの消毒液の例で言えば、しっかり消毒できるって書いてあるくせに、中身が水のボトルを買わされたようなもんだろ」
それで行政が悪者にされてはたまったものではない。
桐生さんは黙って椅子に座るとパソコンの脇に立ててあった本を取り出した。言わずと知れた結城事務局長の伝記――もとい、『医療センター三〇年の歩み』だ。
「なに? その本がどうかした?」
「この本には、当院の医療事業のスタートまでに紆余曲折があったことが書かれています」
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