ひび割れそうになる日常

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「あったっけ?」 「公共事業を請け負う企業は入札形式で決定します。身近なところですと、わたしが担当している当院の委託業者もその一つです」 「受付とかの事務系とか、派遣の専門職もそうだよな。人事系のこと以外は担当課がやってくれてるけど」 「この入札は公平に行われなければなりません。価格だけではなくその内容も当然、考える必要があります」 「そりゃそうだ」 「ですから、選ぶときは慎重になります。しかし、残念なことに古今東西、これに関わる不正が多いことも事実です」  よくある話ではあるが、だんだんきな臭くなってきた。 「三〇年前。ある国会議員の脱税事件の資料から、大規模な汚職事件が発覚しました。議員及び官僚と建築業者との癒着が白日の下にさらされることとなり、日本各地に飛び火したと言います」 「へぇ」 「わたしはまだ生まれる前の話ですが、友利さんは生まれていたはずです。覚えていらっしゃいませんか」 「いや、その頃の俺、ようやく離乳食って頃だからな。二歳の年の差、そこまでデカくねえよ」 「それは残念です」  待ってくれよ桐生さん、そんなの普通覚えてねえって。本気で残念そうな顔しないでくれ。 「しかし、当センター設立のおり、様々な問題があったことは覚えているかと思います。読みましたよね」 「えっと……なんか難しいことが書いてあったのは覚えてんだけど……」 「残念なことですが、当センターの工事もこの汚職事件に関連しています。はじめに事務局長に内定していた人が逮捕され、マスコミの注目も集まっていました。誰も事務局長のポジションにつきたがらなかったと書かれています」  桐生さんが本を開く。  最初のあたりだ。 「あーごめん。この辺、難しくて読み飛ばしてたかも」 「再読をお勧めします――このように、当院の立ち上げは困難を極めました。埼玉県の医師の人口に対する割合が、全国でも極めて低いことは、友利さんもご存知かと思います」 「全国平均の三分の二なんだよな。人口の割に医師が少ない。おかげでうちはいつも激混みだ」 「しかしこれでも改善したと言えるのかもしれません。当時は全国平均の二分の一ほど。極端に不足していました」 「半分? マジか」
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