ひび割れそうになる日常

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「私が言っているのは、待合ホールから北階段入り口にあるひび割れですが」 「え……そっち?」  と言われて思い出した。  今日はあまりにもいろいろなことがありすぎてすっかり忘れてしまった。  カフェで食事を取った後、階段を通る前に見かけた、角のひび割れのことだ。 「友利さん、北階段は通れないと言っていませんでしたか?」 「そん時はなぜか通れたんだよ。んで、それで見つけたっていうか……発見させられたって言うか……結城事務局長がいたんだよ。俺、初めて見たんだ。結城事務局長、踊り場にいてさ」 「結城事務局長が踊り場に……」 「そ。んで、壁をずっと見てた。あんまり熱心にそっちを見てるから、俺もつられて見たら塗料にヒビが入ってて、なんか、浮いてるんだよ。ほら、待合ホールの壁は人工大理石が貼ってあるけど、北階段は職員しか通らないからコンクリの壁に色塗っただけじゃん」 「わたしも北階段の踊り場で、壁の一点を見つめる結城事務局長のお姿をよくお見かけしていました。ですが、私が見ていた限りでは何もなかった……」 「今日の地震で、高校の体育館の屋根が落っこちたんだよな」 「体育館は経年劣化していたところに揺れが加わり、強度の低い建材では支えきれず――」 「――倒れた」 「そうです。そして当院の場合は――」  折り鶴のマークが脳裏に浮かんだ。 「やっぱ使われてんだ、うちにも」 「はい」  同じ会社が担当したんだ。そりゃ、問題の建材をこっちにだって使ってるよなあ。当然。 「ははは……」  唐突に今日の患者を思い出して寒気がしてきた。  これはヤバイ。
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