大病院のささやかな日常

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 私がここで働きだしたときは、天井に張り付いたモノレールみたいなので運んでいたのだが、それは電車が駅にしか止まらないように決まったステーションにしか止まらず、不便だった。挙句、故障の際は何処で止まっているのか分からない。書類がなかなか届かず、トラブルが多かった。  それを桐生さんがかえた。  解決方法なんか、最高にシンプルだ。人間が運べば問題ない。  簡単な答えだが、みんな、人件費がかかるだろうと思って黙っていたのだ。  桐生さんはどのくらいの人を投入すればいいのかを統計から考え、アルバイトなら時給いくらなら実現できるかを計算した。  その桐生さんの案は、ほとんど変更なくトップ会議を通過し、現在に至る。  念のために明確にしておくが、一年目でそれだ。  桐生さんの優秀さが分かるというものだ。はは…… 「搬送さん、やる気を取り戻してくれてよかったなー。桐生さんが立ち上げた仕事だし。これからも頑張って欲しいよな」  にこやかに手を振って、搬送スタッフを見送る。  彼女は振り返りざまに、何度も何度も頭を下げていた。 「いやーそれにしても、怪我人出なくてよかったよ」 「……」 「桐生さん? 大丈夫かよ。やっぱ、どっか痛い?」  桐生さんは盛大に眉間にしわを寄せ、こっちをにらんでいる。  つーか、こえーよ。 「やはり、顔のストレッチを継続しようと思います」 「は?」  時々、桐生さんはよくわからない。
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