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「見えてるぞ?」
クロネコは平和そうに目を細めている。まるで笑っているかのようだ。
「ほーら、桐生さんが変なこと言うから、笑ってるじゃねえか」
「……本当に、見えているのですね」
「見えてなかったらおかしいだろ。何言ってんだ?」
全く分からない。
「それより、そこにいさせておいて、いいのか?」
病院職員としては、猫を追い払うべきだとはわかっている。
だが、できる事なら、そっとしてやって欲しいという気持ちもある。
実は私は猫が好きなのだ。
「……見えているのですか。ええ、そこにいていただいて、構いません。先方がそれを望まれているのでしょうから」
さすが桐生さんだ。猫相手にも丁寧な言葉遣いは崩さない。
私はそう思って、心から感心していた。
だが後に、お互いに大きな間違いをしていたと気づくのだが、この時には……私にも桐生さんにも、全く分からなかった。
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