地上へ

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 「あいよ」  ドワーフの農夫は、土のついたジャガイモやタマネギ、ニンジンを頼まれたかず、ネットの袋に詰めると、女性ドワーフに手渡した。 壁面から採れる野菜で作る、ポテトサラダはブロジアの伝統料理だ。これに緑色に熟れたトマトを添えて食べるのが一般的な食事法となる。ブロジアトマトは太陽の光を浴びないのでずっと緑色のままである。 女性ドワーフは、野菜の入ったネットを肩に担ぎながら、市場から離れた、カタツムリの殻の形をした木造の自宅に向かい、フランクと書かれた木彫りの表札がかかった戸を開けた。  マルコ・パウロ・フランクという名高い貿易商が住んでいたのはずっと昔のこと。ブロジアの壁の外に広がる地上という世界に唯一抜け出したドワーフ。曰くブロジアの魔術師、曰くブロジアの勇者、曰くブロジアの賢者、さまざまに謳われていたが、一部のドワーフからはブロジアの魔王とも言われている。 マルコ・パウロ没後六十年過ぎた現在は、その孫娘アンナ・カレン・フランクが母親ソフィア・フランクと住む、母子家庭の家になっている。  「おかえりなさい、ママ」  アンナは読んでいた本をパタンと閉じて、ソフィアにそう言った"地上見聞録"というタイトルのマルコ・パウロが地上の民との貿易を記録したものだ。
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