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◇ ◇ ◇
つい先程まで、自分は隣にいた少年と話していたはずだった。
それは間違いない。
耳鳴りがしたかと思うと、突然自分を取り巻く全ての空間が大きく歪んだ。
ヴンッと腹の底にまで響く重低音が全身を震わせる。
その瞬間、音が止まり、風が止まり、人の息遣いが止まり、全ての生き物や物質の時が止まった。
動いているのは、息をしているのは、たぶん、自分だけだ。
確認した訳では無い。
だが、隣の少年が人形のように止まってしまっている様が、全てを物語っているように思えた。
声は出せなかった。
いや、悲鳴すら上げる暇もなかった。
そんな時間さえ与えられずに、自分の目の前に飛び込んで来たのは、小さく細長い生き物だった。
全身をツヤツヤとした鱗に覆われ、四肢のない体がうねうねとうねっている。
持ち上げた小さな頭は、こちらを威嚇するように左右にユラユラと揺れていた。
大きく開いた口からは、糸のように細い真っ赤な舌がピロピロと出たり入ったりを繰り返している。
ギロリ、と黄色い目がこちらを睨む。
そんな“彼女”と目が合った瞬間、呟いていた。
「清、姫……?」
◇ ◇ ◇
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