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「やから、キヨヒメは安心して安珍と転生して」
晴れやかにそう言ったが、キヨヒメは厳しい表情でかぶりを振った。
「それではそなたが消えてしまう…!それだけは、認められん…!」
グッ、と、彼女の肩を強く掴む。
「キヨヒメ、大丈夫やから」
「え…」
「私は消えるわけやないよ。転生しようとした時の時代へ帰って、二人が今度こそ転生してくれたら、私はもう一度生まれる」
キヨヒメはハッとしたが、すぐに顔をしかめた。
「楠元清咲として、もう一度生まれられるか分からんのやぞ。魂は、様々な魂の欠片と偶発的に結び付いて生まれる。そなたがそなたのままで生まれる確証はないのや。それに、今まで辿ってきた記憶も消える。全てなかった事になる」
清咲は思わず口をつぐみかけて、それでも元気に言った。
「私は忘れへん。そして絶対に清咲としてもう一度生まれてくる。約束する、絶対や。やから、キヨヒメは安珍さんと、そして私を信じて、今度こそ転生して欲しい」
「清咲…」
「キヨヒメ。約束、絶対に破ったらあかんで」
キヨヒメからそっと離れ、静かに佇んでいる物の怪と対峙する。
「清咲!!」
強く錫杖を握り締め、固く目を閉じた。
奏多とキヨヒメが叫んだが、全てを振り払うように、清咲は高らかに言った。
「さよならは言わへんで!絶対に、必ず、どうやっても会いに行くから!それまで、待っててや…!!」
カッと目を見開き、駆け出す。
ぼってりとしたおぞましい姿の物の怪は、パラパラと闇の欠片が降り注ぐ中、やけに大人しく佇んでいた。
それは、諦めているのか、絶望しているのか、それとも安堵しているのか。
何を感じているのか分からなかったが、ふと、物の怪の背後に、痩せっぽちの少年が見えた気がして、清咲はハッと息を飲んだ。
少年は、優しく微笑んでいるように見えた。
(安心して。私がこの悪縁を、この悲しい物語を、終わらせてあげるから…!)
安珍の神としての完全な力を全身で感じながら、清咲は錫杖を振りかざす。
腹の底から唸り声を上げ、全ての神力を錫杖に込めると、物の怪の体へ向かって飛び込んだ。
(頼んだで、キヨヒメ…__!)
清咲は強く願いながら、黒く固い皮膚の内にある、禍々しい思念の塊を、真っ直ぐと貫いたのだった。
◇ ◇ ◇
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