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「それでは、君も一本どうかね?」
先生は自分の咥えていた筒を、フィルターをこちらに向けて差し出した。
「……そんな、僕は結構です」
「タバコの描写の勉強にと思ったのだが、君の選択には従おう」
「やっぱり、頂いてよろしいですか?」
「やはり君は可愛い私の弟子だ。素直な子には明日にでもお菓子を買ってきてやろう」
「聖基屋のレアチーズケーキ」
「ふっ、わかった、それにラングドシャもつけよう」
「そんなに沢山いただいては悪いですよ」
「いつもの感謝だ。何度も言っているが、私は気づかいや態度で感謝を伝えるのが苦手でな、金の物差しをよく使う」
「では、ありがたくいただきます。まずはこのタバコから」
頬が膨らまない程度に煙を含む。そして、舌で押し出すように空気へ解いた。竜は僕に応えなかった。穂先と僕から出た煙は、生まれた瞬間に形を失い、霧同然に散ってしまう。
煙の広がりとともに、口では濃厚な風味が広がる。紙を焼いたように焦げ臭い。それをラムにも似た甘ったるい香りが塗りつぶす。口の中から煙は消えた。なのに香りは咽頭にこびりついている。
「甘いですね」
「ほろ苦くて、しつこい甘さがある。大人の恋はこれだと昔は思っていた」
「今は?」
「甘みもあるが苦みも強い。私の身体はその味を拒絶しはじめている。だから理想の恋心をこいつで楽しんでいる」
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