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先生は新しいのを咥える。
「君、少しの間、咥えたまま動かないでくれるかね」
「どうしてですか?」
疑問は残れど、大人しく従う。
すると先生は、火のないタバコを咥えたまま僕の口元目がけて顔を近づけた。思わず目蓋を閉じる。一体何をする気なのだろうか。先生は唐突にこういうことをするから困る。それで後に「経験のため」ですべて片づけるのだ。唇に動きを感じる。そっと目を開けた。すると先生は、僕のタバコの穂先に自分のをくっつけていた。
「すまない、君のほうでもふかしてもらえないか」
返事もしないで煙を吸い込む。しばらくすると、先生の口から煙がこぼれ出した。
「ありがとう」
「先生、今のは?」
「シガーキスだ」
「キスですか?」
「男同士のマウストゥマウスは嫌だと言っていたではないか。だが、間接キスは気にしないだろう」
「ええ、大学時代はよく友人たちと回し飲みとかしてました」
「それと同じだ、同じ酒を共有する目的で回し飲みする。これは同じ火を共有するためにする」
「なるほど、いやまた勉強になりました。ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらだ。火と経験をありがとう」
「ところで、先生」
「なんだね」
「タバコを止められなくても、一日十本くらいに控えることはできませんか?」
「どうしてだね」
「少しでも長く、僕のそばにいて欲しいのです」
「それは愛の告白か?」
「……僕も今日の月は新月だと思います」
「なるほど、しかし無理な話だ」
「減らすのは一本でもいいのですよ?」
「いいかね、このタバコは私たちと一緒だ」
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