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試合開始前のスタジアムはファンを盛り上げるイベントが開催され、野球のルールに詳しくない一伽も楽しそうに眺めている。
「一伽、外野席のあそこに座っているおばあさん、わかる?」
信政は同じ一塁側の外野席を指さす。
「あ、あの白い服のおばあさん?眠ってらっしゃる人?」
「そうそう」
黄色いポールの近くの外野席に、信政が内野席から指差す老婆が一人で座っている。
「あのおばあさんがどうかしたの?確かに青一色の中に白い服だから、ある意味、目立つけど」
「あのおばあさん、気持ちよさそうに眠っているよね」
「そうね、ほんと気持ちよさそう」
信政と一伽の会話を耳にした隣に座る老人が二人に話しかけてきた。
「お二人はもしかして余呉湖の辺りの出身かね?」
老人から、急に話しかけられたことにも驚いたが、余呉湖という言葉に二人はさらに驚いている。
「は、はい。二人とも余呉湖のある滋賀県の長浜出身で、妻の実家はうちよりもさらに余呉湖には近いですが」
老人は信政の説明を聞いて、なるほどなるほどと首を縦に振る。
爽やかな風がさきほどからスタジアムを駆け抜けていく、そんな初夏の夕暮れである。
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