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審判のプレイボールの宣言でゲームが開始した。
圧倒的な勝率で首位を走るカープを相手に、勝利を目指すベイスターズ。
ゲーム序盤からベイスターズは苦しい展開となった。初回に1点を許すと、2回に2点、さらに4回にもう1点をカープに追加された。
ゲーム中盤の4回裏にベイスターズがなんとか1点を返したものの、5回以降もカープがリードし4対1のままラッキーセブンの7回裏のベイスターズの攻撃に向かおうとしている。
迫力ある応援歌とともに、一塁側の観客席から無数の青色のジェット風船がファンの声援をのせて飛びたっていった。
「すごい迫力ね」
一伽は勝敗よりもスタジアムの雰囲気を満喫しているようである。
「さあ、ラッキーセブン。まずは追いついて、そして逆転だ」
信政は周りの青色のファンとともにメガホンを打ち鳴らす。
そんな信政の応援もむなしく、7回裏のベイスターズの攻撃は無得点のまま終わってしまい、8回表のカープの攻撃をなんとか無得点に抑えたものの、ベイスターズの攻撃はあと2回を残すのみとなっている。
8回の裏へと向かう守備交代の合間、スタジアムが静けさに包まれた瞬間、強い風が観客席を駆け抜けた。
「ハマ風だな」
隣に座る老人がぼそりと呟いた。
ラッキーセブンで打ち上げられた誰かのジェット風船が、今頃になって強いハマ風にのって天空からひとつ舞い降りてくる。
「見て、信政。あのジェット風船」
一伽は天空を指さす。
青色のジェット風船はヒラヒラと一塁側の外野席に向かって舞い降りていく。
やがてジェット風船は信政が先ほど話していた老婆の膝下に静かに着地した。
気持ちよく眠っていた老婆は目を覚まし、膝の上に舞い降りた予期せぬ客人を眺めて微笑みを浮かべている。
「あのおばあさんのところにジェット風船が舞い降りたわよ」
信政に興奮気味に話す一伽の隣で老人が再びぼそりと呟いた。
「これでベイスターズの勝利だな」
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