3人が本棚に入れています
本棚に追加
老人の言った通り、8回裏の攻撃では3ランホームランが飛び出し、あっさりと同点に追いついた。
最終回の9回の裏にはベイスターズは見事なサヨナラ勝ちをおさめ、スタジアムは歓喜に包まれる。
興奮が覚めやらない信政の横で、一伽は隣に座る老人に話しかける。
「なぜベイスターズが勝つってわかったんですか?」
老人は一伽に微笑みを向けながら静かに答えた。
「天女が目覚めたからだよ」
「天女?」
立ち上がっていた信政もシートに座り直し、一伽とともに老人の話に耳を傾けた。
「余呉湖に近い人間なら、羽衣伝説を知っているだろう?」
「はい、天女が舞い降りる話ですよね」
一伽と信政の実家のある滋賀県の長浜市には、昔から羽衣伝説と呼ばれる天女にまつわる物語が語り継がれている。
「外野席に座っているのはワシが愛した天女なんじゃよ」
「ワシが愛した天女?あのおばあさんのこと?」
一伽と信政は顔を見合わせ、外野席に目をやった。老婆は空を見上げて微笑んでいた。
「ハマの天女は昔から居眠りばっかりしておったよ」
幼い頃から羽衣伝説を聞いて育った一伽は老人の意味することを少し理解し始めている。
「天女はつまり勝利の女神なのね。天女が目を覚ますとベイスターズは勝つってことでしょ?」
「さすがは余呉湖に育った娘さんは勘がいいな。なぜジェット風船で応援をするようになったかわかるだろ?」
さっぱり見当がつかない信政の横で、一伽は老人にすぐさま答える。
「ジェット風船は天女の羽衣ってことね。ピンチのベイスターズを勝利に導くために、スタジアムのどこかに眠っている天女を羽衣で目覚めさせるのね」
「なるほど、だからジェット風船をラッキーセブンで空に飛び立たせるんだ」
一伽と老人についていこうと必死の信政が調子を合わせる。
最初のコメントを投稿しよう!