ハマの羽衣伝説

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老人の言った通り、8回裏の攻撃では3ランホームランが飛び出し、あっさりと同点に追いついた。 最終回の9回の裏にはベイスターズは見事なサヨナラ勝ちをおさめ、スタジアムは歓喜に包まれる。 興奮が覚めやらない信政(のぶまさ)の横で、一伽(いちか)は隣に座る老人に話しかける。 「なぜベイスターズが勝つってわかったんですか?」 老人は一伽(いちか)に微笑みを向けながら静かに答えた。 「天女(てんにょ)が目覚めたからだよ」 「天女?」 立ち上がっていた信政(のぶまさ)もシートに座り直し、一伽(いちか)とともに老人の話に耳を傾けた。 「余呉(よご)湖に近い人間なら、羽衣(はごろも)伝説を知っているだろう?」 「はい、天女が舞い降りる話ですよね」 一伽(いちか)信政(のぶまさ)の実家のある滋賀県の長浜市には、昔から羽衣(はごろも)伝説と呼ばれる天女にまつわる物語が語り継がれている。 「外野席に座っているのはワシが愛した天女なんじゃよ」 「ワシが愛した天女?あのおばあさんのこと?」 一伽(いちか)信政(のぶまさ)は顔を見合わせ、外野席に目をやった。老婆は空を見上げて微笑んでいた。 「ハマの天女は昔から居眠りばっかりしておったよ」 幼い頃から羽衣(はごろも)伝説を聞いて育った一伽(いちか)は老人の意味することを少し理解し始めている。 「天女はつまり勝利の女神なのね。天女が目を覚ますとベイスターズは勝つってことでしょ?」 「さすがは余呉(よご)湖に育った娘さんは勘がいいな。なぜジェット風船で応援をするようになったかわかるだろ?」 さっぱり見当がつかない信政(のぶまさ)の横で、一伽(いちか)は老人にすぐさま答える。 「ジェット風船は天女の羽衣ってことね。ピンチのベイスターズを勝利に導くために、スタジアムのどこかに眠っている天女を羽衣で目覚めさせるのね」 「なるほど、だからジェット風船をラッキーセブンで空に飛び立たせるんだ」 一伽(いちか)と老人についていこうと必死の信政(のぶまさ)が調子を合わせる。
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