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「全国各地に羽衣伝説というのがあって、そこらで育った者のみが不思議とあの天女を見ることができるんじゃよ」
「え?どういうこと?それ以外の人には見えてないっていうこと?」
信政はなにがなんだかわからなくなってきた。
「お前さんらにはどうやら天女の姿が見えるようだから、羽衣伝説で有名な余呉湖出身の者ではないかと思ったんじゃよ」
「確かに僕らは余呉湖に近いところの出身だけど」
信政は本当に自分たち以外にはあのおばあさんの姿が見えていないのかを後ろの親子に確認しようと、改めて一塁側の外野席を見る。
「あれ?あのおばあさんがもういない」
「さっきまであそこに座っていらしたのに」
一伽も外野席を見回したがどこにもおばあさんの姿は見つからない。
老人はさもありなんといった表情で続けた。
「ワシがベイスターズの前身、洋松ロビンズの監督をしていた頃も、天女はいつもあそこの外野席に座っていたよ。当時はジェット風船なんてものはなく、いつも眠ってばかりだったがな。お蔭でチームはひどい連敗続きじゃったよ、まったく」
「え?以前、おじいさんは監督をされていたんですか?」
信政は天女のことよりも監督の方に興味をそそられる。しかし老人はそれ以上、答えようともせず、ただニコニコと微笑みながら外野席を眺めていた。
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