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「それにしても羽衣伝説の土地で育った僕たち以外の人には、あのおばあさんの姿が本当に見えなかったのかな」
信政はしばらく考え込み、首を傾げて立ち止まった。
「ちょっと待てよ。1954年に洋松ロビンズの監督をしていたということは、あのおじいさんはいったい何才なんだろう?50才で監督を務めていたとしたら今年で114才ってことになるぞ。仮に若くして40才で監督だったとしても104才」
「あのおじいさんが100才を超えているわけないじゃない、せいぜい80才くらいよ」
二人が座っていたすぐ後ろのシートで観戦していた親子も、信政と一伽の後に続いて出口へと向かう列にいる。
親子は根っからのベイスターズファンでキャップからユニホームまで青色一色を身にまとっている。
「ねえ、パパ。さっきスクリーンに出てた『まんいんおんれい(満員御礼)』ってどういうこと?」
「満員御礼って、スタジアムのすべてのシートが売れちゃったってことだよ」
「ウソだぁ。だって前のお兄ちゃんとお姉ちゃんが座っていた隣のシートには、最初から最後までずっと誰も座らなかったよ、それに一塁側の外野席にも」
「そう言えば、前のシートはずっと空いていたね」
パパは少し考えてから優しく子どもに話す。
「もしかしたら『ハマの羽衣伝説』の天女が今日のゲームを観戦してくれていたのかもしれないね」
「うん、ボクも友だちから聞いたことがあるよ。今日のサヨナラゲームなら、きっとそうに違いないね」
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