雲のうさぎ

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「じゃあ、あとはよろしくね」  会社の後輩との電話を終え、先週の会議の議事録に目を通したあと、男は家を出た。郵便受けを開けると、よく利用している紳士服屋から「30歳のお誕生日おめでとうございます!特別クーポンを差し上げます」というダイレクトメールが届いていた。  柔らかい日差しと涼しい風が、さりげなく秋の訪れを告げる穏やかな日曜日の午後だ。男は休日にはよく散歩をするが、今日は少し遠くへ行ってみようと、各停の電車に乗り5駅目で降りた。明るく朗らかな生活感を感じさせる住宅が多く並び、ゆるやかな空気が流れている。  男は商店街に入り込んだ。しばらくゆっくりと歩いていたが、向かいから歩いて来た女性の顔を見て、彼は立ち止まった。女性も男の顔を見て立ち止まった。 「久しぶり」  男は確信を持って言った。 「久しぶり。10年ぶりかな」  女は照れたような表情でそう言った。
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