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手押し車を押す老女が、小さな歩幅で公園を横切って行く。黄色い落ち葉が男の靴をくすぐる。男は公園のベンチに座って空を見上げていた。
男の前に来たあたりで、老女は小さな小石につまづいた。老女は転びはしなかったものの、手押し車の収納バッグに詰められていたいくつかの野菜が地面に転がった。それを見ていた男は駆け寄り、野菜を拾い集めるのに手を貸した。
老女はじゃがいもを両手で握りしめ、にっこりと笑った。
「ありがとう。あなた、いつもここで空を見上げている人ね」
「ええ、雲を見るのが好きで」
「そうなの。なにか面白いものがある?」
「色んな形が見えるんです。さっきは、綺麗なうさぎが見えたんだけど」
男と老女は空を見上げた。細かく千切れた雲が魚の鱗のように空を埋めているだけだった。
「また、見えるといいわね」と老女が言った。男は頷いた。
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