625人が本棚に入れています
本棚に追加
その時からムスタファはハイドにかなり御執心で、それはまあ熱い内容の恋文が頼まずとも送られてきたものだ。
自国の父王は気が弱く、大国の王子からの求愛を断ったら国が潰されるのではと震え上がっている状態。
このままいけば明日にでも結婚させられると焦ったハイドは、自分のような者で釣り合うかまずは相性を見る期間が欲しいとお願いしたのだ。
「(これじゃ婚姻どころかガキのお守りだぞ…)」
だがその強引さも若さの勢いが原因だと仮定して考えると納得がいく。
ただ今は勢いで盲目になり熱が上がりきっている状態ならば、おそらくは冷めるのも速いはず。
「(何とか諦めてもらわなくてはな…)」
ハイドからはこの求婚を断れない。
ならばムスタファが婚約期間中にハイドを嫌いになる理由があればいい。
そうすればお互いの経歴に傷をつけることなく白紙に戻せる。
そのつもりで今日ここに来た。
「そう、でした。申し訳ありません、少し浮かれてしまって」
「構いませんよ」
ムスタファは表情を変えずにしゅんと頭を垂れた。
どうやら反省しているらしい。
強引な上に面倒くさそうなガキだ、とハイドは内心舌打ちした。
「そろそろ日が高くなります、部屋に参りましょう。ただでさえ長旅だというのにこのように環境の違う場所だ。お疲れでしょう。ご案内を」
最初のコメントを投稿しよう!