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すぐさま姿勢を正して椅子から立ち上がる。
オリヴァーが扉を開けると、そこには先程まで一緒にいたムスタファが立っていた。
ムスタファはゆっくりと部屋に入りハイドを見つめる。
「失礼致します、少し…お話をしても?」
「勿論です、どうぞ」
ムスタファが椅子に座ったのを見てから自分も座り直した。
「こちらの机と椅子は使いやすいでしょうか、床に座る文化は不慣れかと思いまして用意させたものなのですが」
「ええ、とても快適ですよ」
「それは何より」
当たり障りのない会話をした後に沈黙が流れる。
その空気を先に破ったのは相手の方だった。
「実は…その、此度の婚約について俺が大国の権力を振りかざし貴方を強引に伴侶に迎えたと思っておいでなのではないかと思いまして」
「…そんなことは」
思ってるけどな、とハイドは心の中で大きく頷いた。
どうやら相手方もそれなりにやり口が強引なのだとは思っていたようだ。
ムスタファは捨てられた犬のように不安そうに揺らいだ目を向けてくる。
「本当ですか?」
「はい、ただ…」
「ただ?」
「何故、私をお選びになったのかと。わざわざ他国の人間を迎えずともこの国はこんなに栄えておりますのに」
いい機会だからとハイドは一番気になっていることを切り出した。
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