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その質問にムスタファは照れくさそうに笑った。
「貴方を一目見た時、貴方の優しさに触れた時、俺の心は既に奪われているのですよ」
「…私達は今日初めて会ったのでは」
「いいえ」
ムスタファの返事にハイドは目を丸くさせ驚いた。
今日が初対面ではないと、ムスタファははっきりとそう言ったのだ。
しかしハイドの方には彼とあった記憶などない。
大砂海帝国の国民はハイドの国とは違い、艶やかな褐色の肌を持っている人間が多い。例に漏れずムスタファもそうだ、もし会っていたとしたら忘れるはずがない。
「流石に覚えていらっしゃらないですよね」
「…あの、失礼ながらそれは本当に?」
「はい。緑色の雨、俺が貴方に惹かれる理由はこの言葉に集約されております」
「あの…仰っている意味が」
「わからなくとも結構です、覚えていなくとも俺はこうしていられるだけで幸せだ」
答えを聞きたかった筈なのに更に謎を増やされてハイドは頭にもやがかかったようにわけがわからなくなった。
一体何の言葉だろうか、何かのことわざなのだろうか。
考え込んでしまったハイドにムスタファは困り笑いで話題を変えた。
「ところで殿下のお付きの方は彼だけなのですか?こちらに気を使ってくれなくとも宜しかったのですよ」
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