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「は?」
午後の暖かい日差しが差し込む部屋。
そんな中でひとつの素っ頓狂な声が上がる。
声の主、ハイドランジアは顔をひきつらせて目の前に座る父を見つめた。
「今なんと仰られたのですか父上」
「結婚だ。お前に他国の王族から縁談がきている」
「断ります」
「今回ばかりはそうもいかんのだよ」
即行できっぱりと言い切ったハイドに、父である王はため息混じりで額を押さえた。
「何故ですか、と、いうより一体どこの下賎な国の姫です。求婚の手紙は男から送るというものが常識でしょう。そんな頭の弱い女はこちらから願い下げですよ」
ハイドは美しい顔立ちで聡明な王子ではあるが、如何せん口と性格の方が大変悪かった。
気が弱く心優しい彼の父王はそんな息子にいつも手を焼いている。
「いや…ハイド、姫ではないのだよ」
「では貴族の令嬢ですか、俺はそういった人種は犬の糞以上に嫌いですよ。ご存知でしょう父上」
ハイドは見るからに苛立ちながら父を睨みつける。
父王は困り顔でハイドに手紙を差し出した。
いかにも高価そうな便箋に美しい文字、この独特の書体はどこかで見たことがある。
「これは…」
それを受け取りまじまじと見つめるハイドに、父王は重々しく頷いた。
「大砂海帝国の王子からだ」
「…あぁあ!?」
「ああっ!誰か私の息子を止めてくれ!!」
ガシャーンと大きな物音と共にハイドの悲鳴にも取れるような怒鳴り声が城内全域に響き渡った。
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