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自分も同じ感情をムスタファに抱いたことがある。
「ほかの人間なら見て見ぬ振りをすることも進んで助けてしまう」
彼の光は強すぎるのだ。
「だから貴方は好かれる、どんな人が相手でも」
ナーヒムはそれを近くで見続けた。
そして、自分が暗がりに隠していた部分に汚れがあることに気づいてしまった。
その光が照らさなければ気づくことはなかったものなのに、気付かされてしまった。
見たくも無い己の汚さを悪意なく見せ続けられて、激しい自己嫌悪と嫉妬に苛まれた。
「俺もあんたみたいになりたかった」
そして、狂ってしまったのだ。
「他人に優しくて人を裏切らなくて…そして俺のことを信頼する…そんなあんたを見るたびにおかしくなりそうなんだ」
自分はあんな生き方は出来ない。
理想と現実の縮まらない差に歪んでいった。
身を焦がすほどの激しい嫉妬と羨望、独占欲でナーヒムの心は壊れた。
「さっきやめてくれ、って言いましたよね…」
ナーヒムは顔を俯かせてハイドの拘束を解いた。
「ハイド…っ!」
「やめましたよ」
床に倒れ込んだハイドから距離を置き、降伏するように自分の両腕を広げてみせる。
「どうします?」
挑発。
ハイドはナーヒムの目論見が読めた。
この男は、初めから自分がどうなろうとどうだっていいのだ。
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