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「お前いっつもあんなことされてんのか」
立ち上がった子供は少年の問いに小さく頷いた。
「化物って…お前の事か?」
子供はもう一度頷いて頭から巻いたぼろきれをおずおずと下げた。
現れた真っ黒い髪、浅黒い肌の顔、ぎらつく大きな瞳。
少年ははたと息を止めて子供の姿を見つめた。
「…成程な、そういうことか」
しばらく眺めたあと、少年は子供に手を伸ばす。
殴られる。
そう思った子供は反射的に目を瞑って首を竦めた。
「おい」
「っ!」
だが少年は殴らなかった。
子供の両頬を手で挟むと上に持ちあげた。
視線がぶつかり合う。
少年の目には悪意も嫌悪も無く、ただ自分に力を注ぐようにしっかりとこちらを見据えていた。
「あのな、世の中には小綺麗ななりでも中身の腐った人間がいるんだ」
子供は少年が何を言っているのかわからずに顔を押さえつけられたまま視線をさ迷わせた。
「そういう連中は容赦なく他人を利用するし体や心に傷つけることを何にも思わねえ」
「…」
「そういう人間を化物っていうんだ」
少年は子供にはっきりと告げた。
「お前は違う。お前は化物なんかじゃない」
「!」
見開かれた緑色の瞳は驚愕を浮かべていた。
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