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だがやがてどんどんと涙が溜まっていき、それは端からぽろりと零れ落ちた。
少年は自分の額を子供の額に当てる。
「お前は虐められても貶されてもあいつらのこと怒ったり傷つけたりしなかっただろ。そういう奴はな大概アホみたいに優しいんだ」
「…っ」
温かい。
子供は初めて他人の人肌というものを感じていた。
こんなにも温かいものがあることを初めて知った。
「お前は俺達よりもずっと尊い人間だ」
こんなにも優しい人が、この世にいるのだと初めて知った。
「南の方にゃお前と同じような容姿の人間が沢山住んでる。馬鹿共の言うことなんか気にすんな、ああいう奴は世の中を知らないから見たことないものを怖がるんだ」
少年の言葉は教会の神父の言葉よりも清浄さに満ちていた。
子供は泣きながらこの少年こそが神父の言っていた天使なのだと信じて疑わなかった。
「人を憎んだりしてるときの人間の目はもっとドブみてえに濁ってる」
子供の心の穢れが落ちていく。
汚いもの、恐ろしいものだと蔑まれていた自分の体が、少年の言葉で全く別のものに変わっていくような感覚があった。
「お前の目はちっとも濁ってない。涙だって、瞳の色が溶けてまるで緑色の雨が降ってるみたいに綺麗だ」
少年はそう言って子供の目から流れる涙を指で掬い、笑ってみせた。
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