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ムスタファは心配したようにジャーミアに声をかけた。
「…どうしてここに」
「貴方様の侍女に入れていただきました」
長い巻毛を乱し、薄絹一枚纏っただけのジャーミアはムスタファの傍へと歩み寄る。
ムスタファはそんな彼女にそっと手を差し伸べ、手を取ると自分の隣に腰掛けさせた。
月明かりに反射した滑らかなその手は冷たい。
「起き上がって大丈夫なのか」
「…少し外の空気が吸いたくて、もう大分薬も抜けましたから」
「…そうか」
そこからはお互い何も話さない。
少しばかり手を握りあって寄り添うと、ジャーミアが長い睫毛を伏せて口を開いた。
「こんな所でなにをしていらっしゃるのですか」
どこか咎めるような口調にムスタファは顔を上げ彼女を見た。
「え…?」
「ハイドランジア殿下はどうしたのかって聞いているんです」
ジャーミアの琥珀色の瞳が青白い月明かりに照らされる。
何も言わないムスタファにジャーミアは形のいい柳眉を逆立てた。
「刺されたと、そう聞きましたわ」
「…っ」
「なのにどうしてムスタファ様はここにいらっしゃるの」
ムスタファはジャーミアの表情に気圧され喉をつまらせた。
そしてぽそりと消え入るような声で呟いた。
「…会うのが、怖い」
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