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完全に失言。
ムスタファばかりを見ていたせいで背後から近づく気配に気が付かなかったらしい。
低い声と共に物凄い怒りの波動を背中に感じ、ハイドは凍り付いた首をゆっくりと動かし振り向いた。
「糞兄貴とは我らの事だろうか」
現れた二人の兄王子にハイドはこの国の砂漠に負けない程乾いた愛想笑いを返した。
こんなもので許してくれる相手だとは到底思っていないが。
「はは…嫌だなスールカーン様…聞き間違いですよ」
「ほう、俺の耳がおかしいと。兄上、貴方はお聞きになられなかったかこの男の暴言を」
「困ったな、私に同意を求めるのは良くないぞ」
どうやら愛想笑いは失策で更に怒りを煽ったらしい。
ハイドは静かに怒るスールカーンとなんとも言えない苦笑をしているアリージャに向き直った。
「そんなことよりもみっともない真似を晒してくれるな」
スールカーンはまるで淫売女でも見るような瞳でハイドを見下げた。
「何のことでしょうか」
「人の通る廻廊で抱き合うなど、あさましい。品格を疑う」
「…はあ、品格ですか」
あまりのこきおろしにハイドの心は暴言を聞かれてしまった焦りから苛立ちへと緩やかに色を変えていった。
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