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その声にスールカーンが気づいた時には遅く、向こう側から血相を変えたムスタファがこちらに駆け寄ってきていた。
「(これを見越して、この男…っ)」
小賢しさにわなわな震える腕をムスタファが掴み無理矢理引き剥がした。
「何をなさっているのですか!?彼はまだ病み上がりなのです、乱暴なことはお止めください!」
ハイドは自分を庇うように前に立ったムスタファの背中に寄りかかった。
しおらしい声を出しながらスールカーンに挑発めいた目を向ける。
「お義兄様は俺のことがお嫌いらしい」
スールカーンの眉間の皺が深く刻まれる。
だがそれも何処吹く風でハイドはムスタファに擦り寄った。
「ハイド…大丈夫ですか」
「平気だ。…あー、でもちょっと貧血かも」
「そのでかい体に血は有り余っているだろうが…」
「倒れたりしない様にこうして支えててくれるか?」
「勿論です」
「この女狐が…」
「スールカーンもうやめなさい、お前の全身から呪いが噴き出しそうだ」
ムスタファに絡みつくハイドのせいでスールカーンの体からは怨嗟が迸り、黒い炎でも立ち上りそうな勢いだ。
「じゃ、じゃあ私達はこれで失礼」
アリージャはそんな魔物のような形相の弟をおっかなびっくり引き離すと、引っ張って行った。
喧嘩の一連の流れを知らないムスタファはただ不可思議そうに首を捻った。
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