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「だって、今の俺を見てもらいたかったから」
過去の哀れな子供ではなく成長した男の自分を見て欲しかった。
好きになってくれなくてもいいだなんて思ったが、あれは嘘だ。本当のことを言うと一から自分を好きになってもらいたかった。
「俺はまだ何もない未熟な王子ですが、すぐに兄様方のように立派な男になってみせます」
「そんなに先走らなくてもお前は既に立派な男だろ」
「…そうですか?」
「ああ」
この頑なに閉じた自分の心を開いたくらいなのだから。
その言葉は心に秘めてハイドは空を仰いだ。
「充分王の資質もある。まあ世間知らずであまっちょろいところがあるがそこは俺が補ってやれるしな。…何ならこの国二人で乗っ取るか?」
「ええっ!」
「冗談だよ」
ちょっとした軽口にあからさまに驚く姿を笑いながらハイドはムスタファを見据えた。
「お前がいるなら他には何もいらねえよ」
「…あ、あれ」
その言葉を聞いた途端ムスタファの両目から突然ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
驚いたハイドが心配そうに見つめるとムスタファは首を振った。
「ご、ごめんなさい違うんです。何だか貴方とこうしていられるのが夢みたいで」
嬉しいんです、とムスタファは泣きながら笑った。
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