626人が本棚に入れています
本棚に追加
「お風邪をひかれますわ、さあお早く」
それにわざとらしく驚いたファティマがアリージャの背をぐいぐい押して部屋から追い立てる。
驚異の連携業だ。
ばたんっと扉を閉める音は、そのままかんぬきでもかけそうな勢いの強さだった。
「青は却下になったわね、ファティマちゃん」
「ええ、全くアリージャ様は払っても払っても虫みたいに湧いて出ますわね」
「婚礼衣装を夫より先に見ようだなんて許されなくてよ」
「……」
先程までの笑顔はどこへやら、無表情になり言ってのけるジャーミアとファティマ。
女って怖いんだなとハイドが少し恐怖を感じた瞬間だった。
その時小さく扉を叩く音が聞こえ、隣の部屋にいたムスタファが顔を出した。
「失礼。今アリージャ兄様の声がしたような…」
「あ、追っ払いました。御安心を」
ムスタファ自身も着替えの最中で、黒地に金刺繍の婚礼衣装を身にまとっていた。
慌てて見に来たのか服装が乱れている。ファティマがムスタファに歩み寄りてきぱきとその乱れを直していった。
「ムスタファ様は黒地になさいます?」
「色にこだわりはない、これでいい」
ジャーミアはハイドの手をひいて立たせると手に持った白の生地を体にあてがった。
最初のコメントを投稿しよう!